豆腐のこと

豆腐屋を継いだ頃は、美味しい豆腐を作ることばかり考えていました。
いろいろな大豆を試してみたり、凝固剤を変えてみたり、・・・。
そんな豆腐作りに夢中になっていたころ、豆腐屋さんで働いていた女性と話をする機会がありました。
豆腐屋さんで働く理由を尋ねたところ、「お豆腐は小さな子供からお年寄りまで誰もが安心して食べることができる食品だからです。」とはっきり応えられました。
実はそれまで、そんなこと考えていませんでした。
言われればそんなこと当たり前じゃないかと思うくらいでした。
でも、よくよく考えると同じような食品があまり思い浮かびません。
それからというもの、この言葉が引っかかるようになりました。

2011年3月11日。
産地に足を運びようやく何軒かの農家さんに大豆を作ってもらえるようになった頃です。
原発事故が起こり、使っている大豆の3箇所の産地がことごとくホットスポットになってしまいました。
当店のお豆腐には大豆の産地が書いてあります。3.11以降はその産地の商品が売れなくなりました。
安心して買えなくなったと思います。
この時、お豆腐屋さんで働いていた女性の言葉がはっきりと思い出されました。
美味しい豆腐は誰もが求めています。でも、その前に彼女の言葉が前提にあったのです。
彼女の言葉に豆腐の本質があるように思いました。
それからは、自分なりにどこに安心の線を引いて豆腐作りをするか考えるようになりました。
突き詰めると使えるものが限られてしまうし、コストもかかってしまいます。
今は自分で引いた線で、できる限り素性のわかる豆腐を作っていきたいと思います。